夕ご飯の食材を買いに、近所のスーパーに行ったときのことだ。日中のスーパーは人がまばらで、買い物しやすくて良い。きょうのメニューは何にしようかと、思いを巡らせて売り場を巡る。すると、一人で精肉コーナーに突っ立ている中年男性がいた。まぁ人それぞれ色々な事情があるだろう。平日の昼下がりに、男性がスーパーにいることなんて珍しいことでもなんでもない。

おおむね買い物を済ませ、レジに並ぼうとしたとき、恐ろしいことに気がついた。バッグの中に財布がないのだ。そういえば、夕べ娘が私のバッグを触っていたような気がする。やられた。買い物するのに財布を忘れるのは、磯野家のバカ長女ぐらいだと思っていたが、まさか自分がやらかすとは。

買い物カゴに入った商品を一点一点、売り場に戻す。恥ずかしいやら何やらで、私の何か大事な物が削られていくようだった。精肉売り場には先ほどの中年男性が、まだいた。よほどきょうのメニューの肉を厳選しているのだろう。

半分泣きながら自宅に帰り、財布を探す。案の定、娘のおもちゃ置き場に財布が鎮座していた。あとで説教だ。往復1時間。無駄な時間を使ってスーパーに戻る。
先ほど買い物カゴに入れていた商品を、もう一度カゴに入れ直していく。
私は一体何をやっているんだろうと思いながらも、淡々と買い物を続ける。
どうせ私が財布を忘れて家に帰ったなんて、誰も思わないだろう。
お魚くわえたドラ猫を追いかける磯野嬢とは違うのだよ。

精肉売り場にたどり着いた。
皆さん想像通り、あの中年男性がまだそこにいた。
少し気持ち悪くなったが、相手にしちゃいけない人だと思う。
買い物を済ませてレジに並ぶ。さっきまで空いていたのに、1時間のロスがあったせいだろうか。

徐々に混み出す時間帯のようだ。長い行列になっていた。
ヤレヤレと思いながら並んでいると、先ほどの精肉売り場の男性が私の後ろに並んできた。
「どれ、どんな肉を買ったのだろうか」と私の好奇心がうなりをあげた。
視線を男性のカゴに移すと、驚愕の事実がそこにあった。

カゴの中にはなんと「のり弁当」が一つだけ。目を疑ったが、確かに惣菜コーナーの「のり弁当」が入っていた。精肉売り場の数時間は一体何だったのだろうか。いろいろツッコミたくなったが、彼なりの思いがあってのことなのだろう。きっと優柔不断な性格なのだ。

会計を済ませ、商品の袋詰めをしていると、先ほどの男性があっさりと会計を終わらせ雑誌売り場に向かっていった。帰り際、その男性が読んでいた雑誌がどうしても気になってしまい、彼に接近。断っておくが、私は彼のストーカーではない。
ページを覗くと「太陽光」がテーマの記事のようだ。
その雑誌の表紙には「太陽光発電のメリット・デメリット」とあった。きょうのご飯のメニューを迷うくらい優柔不断な人が、太陽光発電のメリット・デメリットなんて考えられないと思うのだが。ていうか、本当は何の料理を作ろうとしていたのだろうか。非常に気になる。